金星

 どうしておねえちゃん2人にはできることがあんたにはできないの絵なんて書いてたってなんの自慢にもならないよそんなお人形さんばっかり書いてどうして2人にはできることがあんたにはできないの、あすこの〇〇ちゃんなんて帰ったらずっと勉強してるんだってよどうしてあんただけそんなふうになっちゃったんだろうねやっぱり甘やかされちゃったねだめだね

 小学校高学年から中学1年までくらいの間まで、祖母に言われ続けてきたことばである。自我が芽生え、自意識やらなんやらでただでさえ精神的に完成していないのをぐちゃぐちゃに踏み潰されたわたしは、きちんとゆがんで育った。
 自尊心が異常に低く、他人からの評価がおそろしく、わたしの指先はなにをするにも小刻みにふるえていた。かおだけはお面みたいににこにこしていたように思う。友達もそれなりにいたし、ばかみたいな話をしてわらったりもした。しかし、わたしの胸のモヤモヤと冷や汗と過呼吸とパニックと指先の震えはいっこうにおさまることはなかった。
 母親にはそんなの誰にでもあることだ、甘えないでと突き放されて、わたしは中学校へいき、リコーダーの穴をふさぐ指先をふるわせ、わらっていた。
 母親はわたしの鮮血を見たとき、やっと心療内科にわたしをつれていくことを承諾した。


 ときどき、劣等感に押しつぶされそうになる。まわりの人間がおそろしくなる。視線が、視線、それはわたしを刺す台所包丁で、突きつけられるたびにわたしは冷や汗をながし、パニックになる。だれからも嫌われているような気がする。だれからも望まれていないのだと思う。あつい身体にきみが突き立てたほんものの台所包丁のつめたさは、わたしを安心させた。あのまま刺し殺されてしまってもよかった。わたしのからだから垂れ流される赤をきみに見て欲しかった。それをみたきみがどんな顔をするのか、知りたかった。それにふれるのだろうか、にげだすのだろうか、じいと眺めているのだろうか。

  200円のガチャガチャで出てきた金星はまだ開かないままで、シャボン液に刺した花はきたならしくかれてしまった。あれからあの猫にはあえない。セックスしたあと、いつもきみはわたしに飲みものを飲ませてくれる。それがいつもすごくうれしくて幸福なことだと思っていることを、きみは知っているだろうか。いつか200円の金星が開いたら、ふたりみたいになれるだろうか。
  

なんで2人にはできることがわたしにはできないのだろう。