精神性ハンバーグのレシピ

 あたし綿矢りさになれない。浅野いにおのクソサブカル漫画。装丁のかわいい綿矢りさの文庫本。いちばんかわいいのは、勝手にふるえてろの装丁。江國香織の文庫本の装丁もきれいでかわいい。
 せかいはすぐそこにあったんじゃなかったの。こんな悪夢終わらせてって、わたしが泣いても喚いても、おわんないの、きみならわかる?
 わたしちょっと、こわくなったの。いまさらだけど、人間のことあんまりかんたんに信用しちゃだめなのかもって。でも、ふれてみたいんだもの、柔らかい部分、みせてよ。柔らかい部分見せてもらうかわりに、わたしも柔らかい部分見せなきゃ、そうしたらしっぱいするの、わたしの柔らかいところだけ持ってっちゃうのね、そっかふーんって知らんぷりするのがいちばんなのはよくわかってます、でもわたしまだきみの柔らかいところみせてもらってない、から、くやしくてかなしくてだいすきで、どんどんへんなことになっちゃって、あーあ、やだな。
 はやく自殺したいな。レモン味の飴舐めながら自殺したい。こんなくだらないきたない自分を単純計算であと60年もみつづけていかなきゃならないなんてむりだもの。なんにもいらないからさ、もいっかいキスだけして。わたし、自分が人間だっておもったことない。だからわたし人間じゃないんだ。薬だってきかない。本気でそう思ってたし、たまに思う。むかしみた、ロボットの映画のせいだと思う。自分を人間だと思い込んでるロボットのはなし。そのときのわたしは、わたしもそうなんだきっとそうだって思って泣いたの。お母さんもお父さんもそんなわたしをみてわらってたけど、ほんきだったんだ。
 きみの精神性をぐちゃぐちゃにしてやるのがとうぶんのわたしの夢。ぐちゃぐちゃにして、かき混ぜて、こねて、丸めて、焼いてハンバーグにしてたべてやるから。そのためだったらわたしたいていのことしてしまいそう。泣いてる君に無理やりたべさせるよ、きみの精神性ハンバーグ。そのかわりわたしのこともぐちゃぐちゃにしてくれちゃっていいよ、ハンバーグはかわいくないから、せめてパンケーキにしてよね。きっと甘い。あーあ、あー、あ、きこえてる?

 ファッション雑誌を買った。いつぶりかわからない。私難しいことはなにも知らない。正直言って私は馬鹿だとおもうんだ。馬鹿が一周回っちゃった感じだから、みんな、あたまいいねとか賢いとか繊細とか特別とか言ってくれるんだけど、みんなのほうがよほど賢いし特別だと思う正直、わたし、人間にランキングは存在すると思うの。今日すんごいわらっちゃったよ。ひさしぶりにこんなわくわくしてるよ。別になんでもどうでもいいから最初から、いちいちかくにんなんてしなくていいのにね。いまもちょっと笑ってる。ほんとうにほんとうに醜くてばかでだっさくてかわいいよね、たまらないきみのそういうところ。
 ひさしぶりに死んじゃいたいなぁって思った。負の感情というより、正の感情。いままで死んじゃいけないから生きてたんだけど、べつにまぁいいやみたいなかんじ。だっさ。だっさだっさ。今日も説明会選考。いちおう価値のあるらしい人間がわたしに価値があんのかどうかみてくる。みんなばかみたいに髪ひっつめて背筋伸ばしてうなずいてるの、そのなかからはいきみ価値ある最高じゃんってそれってランキングじゃん。ひとの命の重さは等価ではありません、だっさ。わたしの親は貧乏で、おかねない、からだいぶランキングしたのほうからのスタートでわたしまだそのまんま。お姉ちゃんたちはちがった。どんどんうえにあがっていった。だからみんな褒めるのそれ、ほんと、なにも見てないなにも見えてない見てくれないよ、わたしたちはきみたちのスキルや学歴より人を見るよって嘘だからぜんぶあれうそだよ。どうにもならないことなんて世界にいくらでもある。どうにかしたくてもがいても全く意味のないことだってたくさんある。しあわせになんてなれない。はじめから決まってる。あのさ、いつか幸せになれるって勘違いしてない?どうせなんとかなるって思ってない?ならないよ、ならない、むり。むりだけどさ、だけどさ、こうやってファッション雑誌買ったりさ、文章をつくったりさ、きみのこと考えたりさ、そういうのってわるくないとおもうの。ばかで醜くてだっさいけどさ、わるくはないとおもうよ。わたしは死んじゃうかもしれないけど、死なないかもしれないけど、ばかだから大丈夫だよ。

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 バイトの休憩室で、グミを食べています。パイプ椅子に座りながら白いテーブルにグミを並べています。最近、すごくきもちいいセックスをしました。セックスをしているとき、相手の男はすごくすてきな目をしていました。三白眼で、わたしを睨むように、貪るように、見つめていました。わたしはセックスをする際にそのような目をする男の人を知りませんでしたので、非常に印象深く感じ、脳裏に焼き付いております。わたしはきっと、彼のその目にどうしようもなく惹かれてしまったのだと思います。彼のその目を思い出すと、胸の内が震えるような感覚を覚えます。 
 ラブホテルを利用したのはその夜が初めてでした。わたしは記憶に留めておくためにアイフォンのムービーを起動し、タッチパネルで部屋を選ぶところから録画を始めたのでした。非常に気分が高揚していたのを覚えています。ラブホテルというのはセックスする場所であると大方認知しておりましたので、何組もの男女がわたしの頭上でくねくねと交わる姿を想像し、へんな気分になったのでした。そして数十分後にはわたしとその男もそのうちの1組になるのでした。
 東京には今桜が咲いています。わたしは花というものにあまり興味がありませんでしたので、毎年毎年飽きずに咲く桜をじっくりと眺めたことなどありませんでしたし、花見なんて桜を口実にガブガブとアルコールを摂取する行事程度に考えていました。ラブホテルを出て、恋人の家に帰る途中、ふと桜が目につきました。いつもだったら立ち止まることもなく通り過ぎるその場所で、わたしは只々立ち尽くし、桜を見上げていました。たぶん、わたしは少しかなしかったのだと思います。すこし、泣きたかったのだと思います。桜には人間をセンチメンタルにする力があるのかもしれません。それともわたしがかなしかったから、泣きたかったから、桜を見ていたのかもしれません。かわいらしいピンク色でした。わたしは地面に散った桜のかわいらしいピンク色の花びらをパンプスで踏みつけました。花びらは泥で汚れてしまったので、ちっともかわいくありませんでした。
  わたしの胸に顔を埋めて、ア、マスカットの匂いがする、と男は言いました。それが起因しているのかどうかはわたしの深層心理に訪ねてみないとわかりかねるのですが、わたしはバイトの休憩室でパイプ椅子に座りマスカットの味がするグミをたべているのでした。もうじき休憩時間は終わります。休憩室の時計は19時50分を指しています。わたしはふたたびレジ打ちロボットに変身するのです。

 

彼のこと 2

 彼に会った。吉祥寺のルノアールで。電話越しでない彼は新鮮だった。けれど、声の低さも話し方も背の高さも目つきの悪さも彼そのものであり、新鮮ではあったけれど確かに彼であった。
 彼はブレンドコーヒーを頼み、私はウインナーコーヒーとチーズケーキを頼んだ。君ってすぐやれそうだよねって、彼はマルボロメンソールの煙を吐き出しながら笑う。首をかしげて彼を見ると、そういうところだよねとまた笑われる。どうやらわたしはすぐやれちゃいそうな女らしい。彼は子供っぽいのが嫌いだから、服もなるべく大人っぽいものを選んで、冷たい耳たぶに痛いのも我慢してイヤリングをつけていった。やっぱり彼は笑いながら、頑張ってるのはわかるけど高校生みたいだと言った。なんだこれじゃ、背伸びして大人ぶった高校生か、と思ってわたしはフォークをチーズケーキに突き刺した。
 彼はわたしを駅の改札まで送ってくれた。このあとも接待があってゆっくりしていられないらしい。ゆっくりできちゃったらなにしちゃってたんだろうね、なんて頭の片隅で考えながら、なんとなく触ってみたくなっちゃって手を掴んだ。彼は動揺もせずゆるりとわたしの手のひらを握り返して、またね、と言った。
 わたしはSuicaを改札機に押し当てながら、クリームソーダ頼むんだったなって考えた。あと、ホームの方向間違えた。

彼のこと

 村上春樹の小説を読んでいると、必ずふと頭にびりついて離れなくなる人がいる。村上春樹の小説に出てくる主人公に似ているからだと思う、口調とか、馬鹿みたいに素直に自分の思っていることを話すところとか。わたしとそのひとは、4年前に出会って、なんとなく気が向いたら電話をかけて話す間柄である。それは今も続いていて、彼にとってそれはかなり奇跡的なことらしい。彼は人を惹きつけるなにかがあって、アンニュイだけど明るい。かなり社交的なたちだ。頭が良くて、背が高い。
 彼がプライヴェートで自ら連絡をするのは、彼の心の調子を整えてくれるらしい親友と、わたしだけらしい。プライヴェート以外でそれはそれはかなりの数の人間と彼はつながっているのだろうけれど。わたしのことを好きだと言ってくれるし、わたしも好きだ。好きって色々あるんだけど、彼に持った好きって感情を文字で説明するのは難しい。かなり。だってよくわからないから。恋とも愛ともつかぬ、なんとも言えないもの。水みたいな透明なもの。でも、彼がわたしを好きでわたしも彼を好き、その事実はときにわたしをかなり強くさせる。驚くほどに。それってかなりすごいことだ。
 彼は人に弱いところを見せないけれど、彼に弱っているところを見せる人間は腐るほどいる。だから彼はどんどん孤独になる。歳を取るごとに彼は孤独になる。周りにいくら人がいても。自覚しているけど、治らないと思う。なにかがないとああならないと思う。なにがあったのかわからない。それは一瞬だったのか、何年もかけてのことだったのか。彼は人間になりたいっていう。あなたはおおよそ人間らしくないと、わたしがいつも言うから。人間にしてあげたいけど、人間になっちゃったらつまらないかもしれないから、まぁこのままでいいや。
 いつまで続くかわからないけれどいつまででも続くかもしれない関係。これ以上近づくことも離れることもないだろうと思う。どちらかをしたら、おしまいだから。彼のことを考えている時間はなかなかいいなって思う。いいなって思うだけ。それってすてきだな。
 

無題

人と人が付き合うのってすごく難しいと思う。友達でも親でも恋人でもそうだとおもうけど、みんな違う人間だから考えてることも違くて、その考えのズレでけんかしたりするんだとおもうんだけど。人と付き合うってことは我慢するってことだとおもう。お互いの意見を尊重して、譲り合うこと。ゆずるってことはイコール我慢だとおもう。片方が我慢し過ぎればもう片方にとってはその不満とかそういうものが重たくなるし、我慢しすぎちゃうとブレーキが壊れて相手に対して不満ばっかりぶつけたりパンクしたりするんじゃないかなぁ。
って、友達とその彼氏の話聞いてて思った。

つめたくレシート放り投げられたらなんかもう、接客業なんてそんなものだけど。今日何人の人間のお金をもらってお釣りを渡したんだろう。昨日も明日も。カウンターおいておきたいな。カチカチ。昨日恋人とでんわした。わたし、くたくたで、なにを言ったのか覚えてないけどわたしは誰を頼ればいいんでしょう。あなたがつらいときはわたしは放っておけなくてなにより優先するしわたしも辛くなる。それがフツーだ思ってた。重たい?毎日毎日くすりばっかりのんで、わたしはどんどん腐っていくのにみんな気づかないんだね。果物とか野菜とか、知らないうちにだめになってることあるでしょ、そういうかんじ。もうどうでもいいので安息がほしい。こういうときだけ、甘えるの良くないけど、ぜんぶ人並みにこなしたいけど、それでも弱い部分があるということ。時々笑い出しそうになる。笑いたい。アハハっておっきい声で。涙が出るくらい。つかれたよ。夏だからかな。つかれたの。本当はねいますぐ会いに来て大丈夫なんかじゃないからそうでしょあのときのあなただってそうだったんでしょわたし大丈夫じゃないよわたしわたしあなたのなにになれてる?いつもよくあろうとしてきた、よくあろうとしていることに気づいていた?大丈夫じゃないよこんなの誰が聞いたっておかしいよたすけてよって。そんな風に言えたのならわたしは。おわり。