『1番すきな本、人に教えちゃっていいの?』

 

  そう言われたことがある。わたしの本棚を観察していた男に、いちばん気に入っている本はこれだよと教えようとしたときだった。

 わたしは、やめとく、と言った。ほんとうに教えなかった。なんとなく、その方がいいような気がしたから。わたしの脳みそのなかを覗かれるようなものなのかもしれないとおもった。思想や願望、欲望、信条、あこがれ。そういったものを、きっと見透かされてしまうのだろう。

 

 最近初めて、他人にいちばんすきな本について話した。それは、わたしの全部を知っておいてほしいという気持ちからきたんだとおもう。滑稽ではずかしいけれど、そんな愚かなわたしすらも受け止めてほしい、見てほしい、あいしてほしい。

 こんどその本をもってくると約束した。ベッドの上。絡んだり離れたりする身体。

 

 

 きみの暗い目がすきだ。きみは生活の6割くらい、いやもう少し多いかもしれないな、暗い目をしている。見つめてみる。それでも、何も見えないから、きみの全部をしりたいから、きみの全部がほしいから、きみになりたいとすら思った。きみになったら、きみの思考すべて、きみのさみしさをすべて、わたしのものにできるのに。

 わたしはどこまでも貪欲で汚い、自覚している。どんな方法をつかってでも、暴きたい、みてみたい、きみのみる世界。

 

 

 きみのその暗い目がみるわたしはきっと、ひどく醜くて滑稽だ。