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彼のこと 2

 彼に会った。吉祥寺のルノアールで。電話越しでない彼は新鮮だった。けれど、声の低さも話し方も背の高さも目つきの悪さも彼そのものであり、新鮮ではあったけれど確かに彼であった。
 彼はブレンドコーヒーを頼み、私はウインナーコーヒーとチーズケーキを頼んだ。君ってすぐやれそうだよねって、彼はマルボロメンソールの煙を吐き出しながら笑う。首をかしげて彼を見ると、そういうところだよねとまた笑われる。どうやらわたしはすぐやれちゃいそうな女らしい。彼は子供っぽいのが嫌いだから、服もなるべく大人っぽいものを選んで、冷たい耳たぶに痛いのも我慢してイヤリングをつけていった。やっぱり彼は笑いながら、頑張ってるのはわかるけど高校生みたいだと言った。なんだこれじゃ、背伸びして大人ぶった高校生か、と思ってわたしはフォークをチーズケーキに突き刺した。
 彼はわたしを駅の改札まで送ってくれた。このあとも接待があってゆっくりしていられないらしい。ゆっくりできちゃったらなにしちゃってたんだろうね、なんて頭の片隅で考えながら、なんとなく触ってみたくなっちゃって手を掴んだ。彼は動揺もせずゆるりとわたしの手のひらを握り返して、またね、と言った。
 わたしはSuicaを改札機に押し当てながら、クリームソーダ頼むんだったなって考えた。あと、ホームの方向間違えた。