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彼のこと

 村上春樹の小説を読んでいると、必ずふと頭にびりついて離れなくなる人がいる。村上春樹の小説に出てくる主人公に似ているからだと思う、口調とか、馬鹿みたいに素直に自分の思っていることを話すところとか。わたしとそのひとは、4年前に出会って、なんとなく気が向いたら電話をかけて話す間柄である。それは今も続いていて、彼にとってそれはかなり奇跡的なことらしい。彼は人を惹きつけるなにかがあって、アンニュイだけど明るい。かなり社交的なたちだ。頭が良くて、背が高い。
 彼がプライヴェートで自ら連絡をするのは、彼の心の調子を整えてくれるらしい親友と、わたしだけらしい。プライヴェート以外でそれはそれはかなりの数の人間と彼はつながっているのだろうけれど。わたしのことを好きだと言ってくれるし、わたしも好きだ。好きって色々あるんだけど、彼に持った好きって感情を文字で説明するのは難しい。かなり。だってよくわからないから。恋とも愛ともつかぬ、なんとも言えないもの。水みたいな透明なもの。でも、彼がわたしを好きでわたしも彼を好き、その事実はときにわたしをかなり強くさせる。驚くほどに。それってかなりすごいことだ。
 彼は人に弱いところを見せないけれど、彼に弱っているところを見せる人間は腐るほどいる。だから彼はどんどん孤独になる。歳を取るごとに彼は孤独になる。周りにいくら人がいても。自覚しているけど、治らないと思う。なにかがないとああならないと思う。なにがあったのかわからない。それは一瞬だったのか、何年もかけてのことだったのか。彼は人間になりたいっていう。あなたはおおよそ人間らしくないと、わたしがいつも言うから。人間にしてあげたいけど、人間になっちゃったらつまらないかもしれないから、まぁこのままでいいや。
 いつまで続くかわからないけれどいつまででも続くかもしれない関係。これ以上近づくことも離れることもないだろうと思う。どちらかをしたら、おしまいだから。彼のことを考えている時間はなかなかいいなって思う。いいなって思うだけ。それってすてきだな。